ここ一月の間に3人の患者さんが臼歯にかぶせた白いかぶせものが脱落したという理由で来院下さいました。
そのうち2つは「保険で白い歯を被せられるようになりました」と前医で治療されたのですがその被せもの・クラウンが脱落したという訴えでした。もう1つは自費で治療した被せ物・クラウンでした。
最近は奥歯も銀歯ではなく白い歯を被せられるようになったのですね。
以下、朝日新聞デジタル版より抜粋
デジタル技術を使った新しい歯のかぶせ物の公的医療保険の適用が広がっている。白いため銀歯より自然に近く、付け替える人もいる。口腔(こうくう)内スキャナーによる型どりも保険適用されるようになると、患者の苦痛が減って製作期間も短縮できる。
東京都大田区の美容師小林大輔さん(42)は、5本の歯に銀歯が入っていた。笑うと銀歯が見えるのを気にしていた。子どもにからかわれたこともあった。
昭和大歯科病院(東京都大田区)で昨年2月、銀歯を白いかぶせ物に替える治療を始めた。4本は「CAD(キャド)/CAM(キャム)冠」にした。公的医療保険が使え、自己負担は1本約8千円。医療保険が適用されない1本は自費診療でセラミック冠を入れ、約8万円かかった。
小林さんは「歯を気にせず笑えて、お客さんにも口を大きく開けて説明できるようになった」と喜ぶ。
マスコミはこのように良いことずくめに書いてありますが実際の臨床はこんなに簡単ではなく下手な治療をすると歯を失いかねません。
従来の技工師が鋳造で制作するクラウンでは多少、歯科医師の歯の形成、型取りが下手くそでも何とか人為的に合わせて適合させる技術を使えました。しかし、CAD/CAMのようにコンピューターで型を読み込み3Dプリンターで製作されるクラウンは凸凹の歯の形成をもろにコピーします。凸凹のところは適合せずに結局、失敗に終わり、結果的にクラウンは脱落します。
機械は正直なのでパーフェクトに歯の形成が行う場合のみ適合は得られますがパーフェクトな形成は非常に難しい。
また、脱落したクラウンに共通するのは歯を削る時のテーパーが強すぎるということです。
歯を削る時のテーパーとは形成をした軸壁を延長した線、面が交わる角度をいいます。
通常は6度〜10度と言われています。
脱落したクラウンのテーパーを見ると30度くらいありそうです。
これでは脱落して当然です。
このように歯を削る技術は非常に難しいのです。
歯科医師はもっと出来る人にご自身の歯冠形成をチェックしてもらうべきです。
私は歯科医師になって39年になりますが歯科というものはこんなにも難しいものなのかと毎日実感しています。
吉川英樹 拝